歯科検診の際、患者様から「痛くないけれど口の中にしこりがある」という相談を受けることは非常に多くあります。私たち歯科医師がしこりを診察する際、その正体を探るために注目しているいくつかの重要なチェックポイントがあります。まず1つ目は「しこりの硬さ」です。骨のように岩のように硬いのか、あるいは消しゴムのような弾力があるのか、もしくは水風船のようにぷよぷよしているのかによって、診断の方向性は大きく変わります。上顎の硬いしこりは骨隆起の可能性が高いですし、ぷよぷよしたものは粘液嚢胞などの嚢胞性疾患を疑います。2つ目は「可動性」です。しこりを指で触れた時に、周囲の組織と一緒に動くのか、それとも下の組織にガッチリと固定されて動かないのかを見ます。周囲と離れて動くものは良性腫瘍や嚢胞であることが多いですが、根を張ったように動かないものは悪性腫瘍、つまり癌の可能性を考慮しなければなりません。3つ目は「しこりの形と境界」です。つるんとした綺麗な丸型や楕円形で、周囲との境目がはっきりしているものは比較的安心なものが多いですが、形が歪で、どこからどこまでがしこりなのか分からないような曖昧なものは注意が必要です。4つ目は「色の変化」です。周囲の粘膜と同じ色であれば急ぎではないことが多いですが、表面が白っぽくなっていたり、赤みが強かったり、あるいは黒ずんでいたりする場合は、粘膜の異常増殖や血管病変、最悪の場合はメラノーマなどの悪性疾患を疑う材料になります。そして5つ目が「経過」です。これが最も重要かもしれません。そのしこりが1か月前からサイズが変わっていないのか、それとも数週間のうちに目に見えて大きくなっているのか。痛くないしこりの恐ろしい点は、自覚症状がないままサイズだけが増大していくことです。特に唾液腺腫瘍などは数年かけてゆっくり成長するため、本人が気づいた時にはかなりの大きさになっていることもあります。私たちはこれらの情報を総合的に判断し、必要に応じてレントゲン撮影やCT、さらには組織の一部を切り取って調べる生検を行います。患者様自身に行っていただきたいのは、痛みがないからと放置せず、発見してから2週間を1つの目安にすることです。口内炎であれば1週間から2週間で自然に消滅しますが、しこりが2週間経っても消えない場合は、何らかの増殖性変化が起きている証拠です。また、自分で潰そうとしたり、刺激したりすることは絶対に避けてください。万が一、悪性のものだった場合に、刺激を与えることで進行を早めてしまうリスクがあるからです。現代の歯科医療では、視診や触診だけでなく、蛍光観察装置などを用いて粘膜の異常を早期に発見する技術も進歩しています。痛くないから大丈夫という思い込みを捨て、定期的な歯科検診を「お口の癌検診」としても活用していただくことが、健やかな人生を支える基盤となります。
歯科医師が教える口内しこりの判別ポイント