予防歯科の現場で日々多くの方の口腔内をケアしている私たち歯科衛生士から見て、研磨剤は非常にコントロールが難しい、けれど便利な調味料のような存在です。料理に塩や胡椒が欠かせないように、歯磨き粉にも適切な研磨剤の刺激は必要ですが、それが過剰になれば素材である歯そのものの良さを損なってしまいます。よく患者様から「結局どの歯磨き粉がいいのですか」と聞かれますが、私たちの答えは常に「今のあなたの口の状態によって変わります」というものです。例えば、定期的にサロンでホワイトニングを受けている方の場合は、すでに歯の表面が滑らかになっているため、あえて研磨剤入りの歯磨き粉を使う必要はありません。むしろ、研磨剤で表面に傷をつけてしまうと、そこに新たな着色が入り込みやすくなってしまうため、研磨剤無配合のジェルタイプで有効成分だけを浸透させることをお勧めします。逆に、タバコを吸われる方や、毎日お茶を飲まれる方で、表面にざらつきを感じているようなら、粒子の細かい研磨剤が入った製品で毎日リセットすることが、歯石の付着を予防することにも繋がります。私たちがプロのクリーニングで行っていることも、実はいかに歯を削らずに、蓄積した汚れ(バイオフィルムやステイン)だけを取り除くかという研磨の技術です。家庭でのケアにおいても、この「選択的研磨」の考え方を取り入れていただきたいのです。最近では、非常に優れた製品が登場しており、研磨剤の粒子が磨いている途中で砕けて小さくなり、最初は汚れを落とし、最後は表面を磨き上げるというインテリジェントな動きをするものもあります。また、研磨剤そのものに薬用成分をコーティングし、汚れを落とした直後の無防備な歯面にフッ素を届ける工夫がなされたものもあります。こうした最新技術の恩恵を受けるためには、まず自分の今の歯の状態をプロに診断してもらうことが近道です。自分では「着色」だと思い込んで一生懸命研磨剤で磨いていた汚れが、実は初期の虫歯だったり、歯石だったりすることもあります。そうなると研磨剤で磨くことは逆効果でしかありません。歯科医院でのチェックを受け、自分のエナメル質の厚さや、歯茎の健康度を知った上で、私たち歯科衛生士と一緒に最適な歯磨き粉と研磨剤の量を選んでいく。それが、最も効率的で失敗のないオーラルケアの形です。歯磨き粉は1本使い切るのに1ヶ月から2ヶ月かかりますが、その期間、間違った研磨を続けてしまうダメージは無視できません。研磨剤を「汚れを削り落とす砂」と捉えるのではなく、自分の大切な宝石を磨き上げる「研磨クロス」のように捉え、慈しむようなケアを心がけてください。私たちが目指すのは、研磨剤を上手に使いこなし、生涯にわたって自分の歯で美味しく食事ができ、自信を持って笑える状態をキープすることです。そのためのお手伝いを、私たちはいつでも喜んでさせていただきます。まずは、今日使った歯磨き粉の感触を思い出すことから始めてみませんか。その少しの意識の変化が、あなたの口元の未来を劇的に変えていくはずです。
歯科衛生士が語る研磨剤との理想的な付き合い方