ある日の夜、歯を磨きながら何気なく鏡を見ていた時のことです。左側の頬の内側に、舌で触れるとコリコリとした小さな塊があることに気づきました。指で直接触ってみると、大きさは5ミリ程度で、痛みは全くありませんでした。最初は「何か食べ物が詰まっているのか」と思いましたが、口をゆすいでも消えることはなく、粘膜の下にしっかりと何かが存在している感覚がありました。痛くないし、色も周囲と同じピンク色だったので「そのうち治るだろう」と軽く考えていたのですが、1週間経っても2週間経ってもそのしこりは消えませんでした。むしろ、気にすれば気にするほど舌で触る癖がついてしまい、心なしか以前よりも少し硬くなったような気がして、徐々に不安が募っていきました。インターネットで「口の中 しこり 痛くない」と検索してみると、良性のものから悪性のものまで様々な可能性が出てきて、余計に怖くなったのを覚えています。勇気を出して近所の歯科医院を受診したところ、先生は私の頬を丁寧に触診し、いくつかの質問をしました。「いつからありますか?」「形は変わりましたか?」「よく同じ場所を噛んだりしませんか?」という問いに対し、私は覚えている限りのことを答えました。診察の結果、それは「線維腫」という良性の組織であることが分かりました。私には仕事中に無意識に頬を噛む癖があり、その繰り返される小さな刺激に対して体が守ろうとして組織を厚くした、いわば「粘膜のタコ」のようなものだという説明を受けました。癌ではないと聞いて心底ホッとしましたが、放置しておくと噛み合わせを邪魔したり、さらに刺激が加わって大きくなったりすることもあるとのことで、後日、口腔外科で簡単な切除手術を受けることにしました。手術自体は局所麻酔をして15分ほどで終わり、痛みも術後に少し腫れた程度で済みました。切り取った組織を病理検査に出してもらい、最終的にも良性であることが確定した時は、本当に肩の荷が下りる思いでした。この体験を通して痛感したのは、痛くないからといって放置することがどれほど精神的なストレスになるかということです。もしこれがもし癌だったら、迷っている間に進行していたかもしれません。また、自分では気づかなかった「頬を噛む癖」という生活習慣の問題を指摘してもらえたことも大きな収穫でした。口の中のしこりは、たとえ痛みがなくても、自分の体が出している何らかのサインです。それを「ただのデキモノ」として無視するのではなく、専門家に確認してもらうことで得られる安心感は、何物にも代えがたいものです。今では毎日の歯磨きの際に、頬の裏や舌の側面、上顎の状態をチェックすることが習慣になりました。自分の体の一部の変化に敏感でいることが、結果として大きな病気を防ぐことに繋がるのだと、あの小さなコリコリとしたしこりが教えてくれたような気がしています。