親知らずの抜歯(意外と平気)


私に親知らずが生えてきたのは、二十代に差し掛かった頃でした。「生えてきたな」と思いつつも、なんのアクションも起こさず放置すること数年。まっすぐ生えてきたせいか痛くはなかったので、何なら一生そのままにしておこうとすら思っていました。しかし、「あなたみたいに上だけ生えてくるとかみ合わせに影響するよ」というアドバイスを受け、ようやく重い腰を上げて近所の歯科医院の予約を取ることに。私は体質のせいなのか虫歯にもほとんどならずに生きており、歯痛もありがたいことに経験したことがありません。なので、その日は絶対に痛いであろう抜歯という未知の体験にガチガチに緊張しながら診察台に上がりました。歯科医は同じマンションに住んでいたこともある知り合いだったので安心感はあったのですが、それでも健康な歯を抜くのはやはり恐ろしい。そんな心を見透かしてか、歯科医は「久しぶりだね。上顎は比較的腫れも少ないから大丈夫」とニコニコしながらそのまま施術を開始しました。何やら器具を口に入れられた後、「これしばらく噛んでてね」とコットンのようなものを親知らず付近に押し込まれ、大人しく噛んで数分も経った頃でしょうか。歯科医は再び口を覗き込んでコットンを取り、細長い器具(麻酔と思われます)を入れて処置し始めました。正直、この段階では何の感触もなかったのでまだ前処置をしているだけかと思ったのですが、歯科医が途中でぎしぎしとネジでも抜くような動作を始めたことで「あ、今抜いてる最中なんだ」と気づきました。歯が軋みながら引き抜かれようとする感覚は不気味ではありましたが、痛みはまったくありません。やがて軋む感覚もなくなり、おなじみの洗浄器具で口腔内がきれいになると、起き上がってうがいをするようにとの指示。そして歯科医はそのタイミングで痛み止めを持ってきてくれました。「麻酔が切れる前に飲んでおいた方がいいよ」とのことです。その後、ついでに久方ぶりに丁寧に歯石とステインを取ってもらい、私は痛い思いはひとつもすることなく、拍子抜けしながら帰宅しました。おそらく最初に含んだコットンに表面麻酔なるものが染み込ませてあったのでしょう。まさか麻酔がそんなに効果てきめんとは知りませんでした。いつ麻酔針を刺されたのか、いつ抜き終わったのかもわからないまま、私の親知らず抜歯は終了し、今はそのとき抜いた歯が引き出しの奥深くに眠っています。歯科に行くのがなんとなく嫌な私のような人も、技術の進歩はすばらしく思ったほど痛い目には遭わないので、長く放置せず来院すべきです。ちなみに私はやはり数年放置したせいでやはりかみ合わせが悪くなり、今度は顎関節症に悩むことになりました。