「たかが虫歯」と侮ってはいけません。一本の虫歯を放置した結果、歯の痛みだけでなく、日常生活に支障をきたすほどの激しい頭痛にまで悩まされることになるケースは、決して珍しくないのです。虫歯が頭痛を引き起こすプロセスは、虫歯の進行度合いによって、その様相を変えていきます。まず、虫歯がエナメル質や象牙質にとどまっている初期の段階。この時点では、まだ頭痛が起こることは稀です。しかし、虫歯がさらに進行し、歯の中心部にある神経(歯髄)にまで達すると、事態は一変します。歯髄が細菌に感染し、強い炎症を起こす「歯髄炎」になると、ズキズキと脈打つような、耐え難い激痛が生じます。この強烈な痛みの信号は、三叉神経を介して脳に伝わりますが、その刺激が強すぎるため、脳は混乱し、同じ神経が支配するこめかみや側頭部にも痛みがあるかのように錯覚してしまいます。これが、歯髄炎に伴う「関連痛」としての頭痛です。痛みそのものが非常に大きなストレスとなり、交感神経が優位になることで、血管が収縮し、頭痛をさらに悪化させることもあります。さらに、この歯髄炎を放置し、歯の神経が死んでしまうと、痛みは一時的に治まるかもしれません。しかし、歯の内部では細菌が増殖し続け、今度は歯の根の先端から、顎の骨へと感染が広がっていきます。根の先に膿の袋(根尖病巣)が形成されるのです。特に、上顎の奥歯でこれが起こると、膿の袋が上顎洞という副鼻腔を圧迫したり、炎症が直接波及したりして、「歯性上顎洞炎」を引き起こします。頬の奥が重く痛む、鼻が詰まる、嫌な臭いがするといった症状と共に、頭全体が重くなるような、しつこい頭痛が現れます。この段階になると、もはや虫歯は口の中だけの問題ではなく、耳鼻咽喉科領域の疾患にまで発展しているのです。このように、一本の小さな虫歯が、神経の痛み、筋肉の緊張、そして副鼻腔の炎症という、様々なルートを経て、最終的にあなたの頭を悩ませる大きな原因となります。歯の痛みと頭痛が同時にある場合、その震源地は、高い確率で口の中にあることを、ぜひ覚えておいてください。
虫歯が原因?歯の痛みと頭痛の深い関係