歯が痛むだけでなく、顎の下や首のリンパ節が腫れてきた。これは、単なる歯のトラブルではなく、体が発している危険なサインである可能性が高いです。多くの場合、歯科医院での治療が必要になりますが、中には一刻も早く、場合によっては夜間救急を受診すべき、より深刻な状況もあります。どのタイミングで、どの医療機関に行くべきか。その判断の目安となる、危険なサインを知っておくことは、自分の身を守る上で非常に重要です。まず、一般的な「歯痛+リンパの腫れ」の組み合わせであれば、最初の受診先は「歯科」または「歯科口腔外科」です。歯の根の先に膿が溜まっていたり、親知らずが炎症を起こしていたりすることが原因のほとんどだからです。しかし、以下の様な症状が伴う場合は、事態がより深刻化している可能性があります。一つ目は、「口が開きにくい(開口障害)」です。指が縦に二本入らないくらい口が開けにくい場合、炎症が顎を動かす筋肉(咀嚼筋)にまで波及している可能性があります。これを「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼び、感染が皮下の組織に広範囲に広がっている危険な状態です。二つ目は、「食べ物や唾を飲み込むのが痛い(嚥下時痛)」です。炎症が喉の奥の方にまで広がっているサインであり、進行すると気道を圧迫して、呼吸困難を引き起こす危険性さえあります。三つ目は、「顔が大きく腫れている」ことです。歯茎の腫れにとどまらず、頬や顎の下がパンパンに腫れ上がり、見た目にも左右差が明らかな場合、重度の感染が疑われます。四つ目は、「高い熱(38度以上)や、強い倦怠感」といった全身症状です。これは、口の中の細菌が血液に乗って全身に回り始めている「菌血症」の兆候かもしれません。これらの危険なサイン、つまり「口が開かない」「飲み込めない」「顔が腫れている」「高熱がある」のうち、一つでも当てはまる場合は、もはや様子を見ている段階ではありません。通常の歯科医院の診療時間外であれば、地域の夜間休日救急歯科診療所や、大学病院などの救急外来をためらわずに受診してください。これらの施設では、まず抗生物質の点滴や、膿を出すための切開といった、緊急の処置を行って、命に関わる危険な状態を回避することに専念します。歯の痛みから始まる不調が、時として生命を脅かすこともあるのです。