口の中に、大きくて、深くて、治りにくい口内炎が、何度も繰り返しできる。そんな症状に悩まされている場合、それは単なる「できやすい体質」ではなく、その背後に「ベーチェット病」という、全身性の自己免疫疾患が隠れている可能性を、少しだけ頭の片隅に置いておく必要があります。ベーチェット病は、原因不明の慢性的な炎症が、体の様々な場所で繰り返し起こる、国の指定難病の一つです。その最も代表的で、ほぼ全ての患者さんに見られる最初の症状が、この「アフタ性口内炎」なのです。ベーチェット病の口内炎は、一般的な口内炎と比べて、いくつかの特徴があります。まず、境界がはっきりとしており、中心部が深くえぐれた、まるで火山の噴火口のような潰瘍であることが多いです。大きさも、1cmを超えるような「でかい」ものができやすく、一度に複数個できることも珍しくありません。そして、何よりの特徴が、その「再発性」です。一つが治ったかと思うと、また別の場所に新しいものができる、というのを、年間に何度も、何年にもわたって執拗に繰り返します。この痛みを伴う口内炎が、ベーチェット病の診断における、最も重要な主症状とされています。しかし、ベーチェット病が恐ろしいのは、その症状が口の中だけにとどまらないことです。診断には、口内炎に加えて、他に三つの特徴的な症状(主症状)のうち、いずれかが見られることが基準となります。それは、「陰部潰瘍(外陰部にできる、口内炎と似た潰瘍)」、「皮膚症状(ニキビのような発疹や、すねにできる痛みを伴う赤いしこりなど)」、そして「眼症状(目のぶどう膜に炎症が起こり、視力低下や、最悪の場合は失明に至る)」です。これらの主症状の他にも、関節炎や、血管、神経、消化器などに、様々な炎症性の病変を引き起こす可能性があります。もちろん、口内炎が繰り返しできるからといって、誰もがベーチェット病であるわけではありません。しかし、もし、大きくて治りにくい口内炎の再発に加えて、これらの皮膚や目、陰部の症状に一つでも心当たりがある場合は、自己判断せず、必ず専門の医療機関を受診してください。相談すべき診療科は、症状によって異なりますが、まずは「皮膚科」や「眼科」、あるいは総合的に診てくれる「内科(特にリウマチ・膠原病内科)」が適切です。