同じように歯科医院で歯石取りを受けても、「全然痛くなかった」という人もいれば、「すごく痛かった」という人もいます。この違いは、一体どこから来るのでしょうか。歯石取りの痛みは、個人の痛みの感じやすさという主観的な側面もありますが、それ以上に、その人のお口の中の「客観的な健康状態」に大きく左右されるのです。痛みを感じない、あるいは感じにくい人の特徴は、シンプルに「歯茎が健康である」ことです。定期的に歯科検診を受け、日々のセルフケアもしっかりと行えているため、歯茎に炎症がなく、キュッと引き締まっています。歯石の量も少なく、主に歯の表面に付着しているだけなので、器具が歯茎に触れる機会も最小限で済みます。このような健康な状態であれば、歯石取りは痛みよりも、むしろ心地よいクリーニングとして感じられるでしょう。一方、痛みを感じやすい人には、いくつかの共通した原因があります。最大の原因は「歯周病の進行」です。歯磨きが不十分で歯垢や歯石が長期間付着していると、歯茎は慢性的な炎症を起こします。赤く腫れ、ぶよぶよした歯茎は非常にデリケートになっており、スケーラーの先端が少し触れただけでも、出血したり、痛みを感じたりします。また、歯周病によって歯茎が下がってしまうと、本来は歯茎に守られているはずの歯の根(歯根)が露出します。この歯根部分は、刺激を神経に伝えやすい象牙質でできているため、歯石を取る際の振動や冷たい水が、知覚過敏の症状として「しみる」「痛い」と感じられるのです。さらに、歯石の付着している場所も痛みに大きく関わります。歯茎の上の見える部分だけでなく、歯周ポケットの奥深くにまで歯石がこびりついている場合、その硬い歯石を除去するためには、器具を歯茎の下に入れる必要があります。この処置は、当然ながら痛みを伴いやすいため、麻酔が必要になることもあります。つまり、歯石取りの痛みは、いわば「これまでのオーラルケアの成績表」のようなもの。痛みが強いということは、それだけお口の健康状態が悪化しているサインなのです。逆に言えば、定期的なケアで健康な歯茎を維持すれば、歯石取りは決して痛いものではなくなるのです。
なぜ歯石取りで痛みを感じる人と感じない人がいるのか