口の中にできる、できものやただれ。その多くは、数週間で自然に治る良性の「口内炎」です。しかし、ごく稀に、その正体が「歯肉癌(しにくがん)」という悪性の腫瘍である可能性があります。歯肉癌は、早期に発見し、治療を開始することが、その後の経過を大きく左右する非常に重要な病気です。そのためには、単なる口内炎と、癌の初期症状を、私たち自身がある程度見分けるための知識を持っておくことが不可欠です。では、普通の口内炎と歯肉癌の初期症状は、どこが違うのでしょうか。見分けるためのポイントは、主に「治るまでの期間」「形や色」「痛み」の三つです。まず、最も重要な見分け方のポイントが「治るまでの期間」です。一般的なアフタ性口内炎は、通常1週間から2週間程度で、自然に小さくなっていき、跡形もなく治癒します。しかし、歯肉癌の場合は、2週間以上経っても、症状が改善するどころか、むしろ徐々に大きくなったり、範囲が広がったりするのが特徴です。薬を塗っても一向に治る気配がない、というのが、癌を疑うべき最初の危険なサインです。次に、「形や色」を注意深く観察しましょう。口内炎は、一般的に円形や楕円形で、境界が比較的はっきりとしており、表面は白っぽい膜で覆われています。一方、歯肉癌の初期は、形が不正形で、境界が不明瞭なことが多いです。色は、赤みを帯びた部分と白っぽい部分がまだらに混じっていたり、ただれたり、表面がザラザラ、ブツブツとしたカリフラワー状の隆起が見られたりすることがあります。ただの口内炎とは違う、なにか「汚い」感じがするというのも、一つの特徴と言えるかもしれません。最後に「痛み」です。口内炎は、食べ物などが触れると、しみるような強い痛みを感じるのが一般的です。しかし、歯肉癌の初期段階では、意外にも痛みがほとんどない、あるいは、あってもごく軽い鈍い痛みしかない場合があります。この「痛みがない」という事実が、かえって発見を遅らせる原因にもなり得ます。痛くないからと安心せず、上記の期間や見た目の特徴に当てはまる場合は、自己判断で放置することは絶対にやめてください。これらのポイントはあくまで目安です。少しでも「おかしいな」と感じる、治りにくい口内のできものがあれば、ためらわずに、すぐに歯科、特に口腔外科を受診することが、自分の命を守るために最も重要な行動です。
歯肉癌の初期症状、口内炎との見分け方