歯がズキズキと痛むだけでも耐え難いのに、それに追い打ちをかけるように、こめかみや頭全体がガンガンと痛む。このダブルパンチの苦しみは、経験した人にしか分からない辛さです。一見すると別々の場所で起きているように思える歯の痛みと頭痛ですが、実はこれらは密接な関係にあり、多くの場合、口の中のトラブルが頭痛の引き金となっています。では、なぜ歯の痛みが頭痛にまで発展するのでしょうか。そのメカニズムは、主に三つの経路で説明することができます。一つ目は、「神経の関連痛」です。私たちの顔や頭の感覚は、脳から直接伸びる「三叉神経(さんさしんけい)」という太い神経によって支配されています。この三叉神経は、上顎、下顎、そして目の周りへと三つの大きな枝に分かれており、歯の感覚もこの神経が脳に伝えています。歯に強い炎症が起きると、その痛みの信号が三叉神経を伝って脳に送られます。しかし、神経は複雑に走行しているため、脳がその信号の発信源を「歯」だと正確に特定できず、同じ三叉神経が支配する他の領域、例えばこめかみや側頭部、頬などが痛い、と勘違いしてしまうことがあるのです。これが「関連痛」と呼ばれる現象で、歯痛が頭痛として感じられる最も直接的な理由です。二つ目は、「筋肉の緊張」です。歯に痛みがあると、私たちは無意識のうちに痛い歯をかばい、食いしばったり、顎に力を入れたりします。この持続的な緊張は、顎を動かす筋肉(咬筋)や、側頭部を覆う筋肉(側頭筋)を硬直させます。これらの筋肉が凝り固まると、血行が悪化し、痛み物質が溜まります。これが、いわゆる「緊張型頭痛」を引き起こすのです。肩こりがひどい時に頭痛がするのと同じメカニズムです。三つ目は、「炎症の波及」です。特に上顎の奥歯の根は、副鼻腔(ふくびくう)という鼻の奥にある空洞と非常に近い位置にあります。歯の根の先の炎症がこの副鼻腔にまで広がると、「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」という蓄膿症の一種を引き起こします。これにより、頬の奥や目の下の重い痛み、そして頭痛が生じることがあります。このように、歯の痛みと頭痛は、神経、筋肉、そして炎症の波及という複数のルートで、密接に結びついているのです。
歯の痛みが頭痛を引き起こす主なメカニズム