歯の根元が削れる楔状欠損という恐怖
歯磨きは虫歯や歯周病を予防するための基本的な習慣ですが、その方法を間違えると、逆に歯そのものを削り取ってしまうという恐ろしい事態を招くことがあります。その代表的なものが「楔状欠損(くさびじょうけっそん)」と呼ばれる症状です。これは、歯と歯茎の境目あたりが、まるで楔(くさび)でえぐられたように削れてしまう状態を指します。この楔状欠損の最も大きな原因とされているのが、間違ったブラッシング、特に強すぎる力での横磨きです。毎日、硬い歯ブラシでゴシゴシと力を込めて左右に大きく歯を磨いていると、その摩擦によって歯の最も弱い部分である歯頸部が徐々に削られていってしまうのです。初期の段階では自覚症状はほとんどありませんが、進行するにつれて象牙質が露出し、冷たいものがしみる知覚過敏の症状が現れます。さらに欠損が深くなると、そこから虫歯になってしまったり、最悪の場合、歯が折れてしまったりすることさえあります。一度削れてしまった歯は、自然に元に戻ることはありません。治療としては、削れた部分をレジンなどの歯科用プラスチックで埋める処置が行われますが、これも根本的な解決にはなりません。なぜなら、原因であるブラッシングの癖を直さない限り、詰めた材料の周りから再び歯が削れていってしまうからです。楔状欠損を防ぐために最も重要なのは、力のコントロールです。歯ブラシはペンを持つように軽く握り、歯に当てる力は百グラムから二百グラム程度が理想とされています。毛先が少ししなる程度の優しい力で、横方向ではなく、縦方向や斜め方向に小刻みに動かすことを意識しましょう。心当たりのある方は、今日からでも歯磨きの方法を見直してみてください。歯を守るための習慣が、歯を壊す原因になっては本末転倒です。