親知らずは、口の中のトラブルメーカーとして知られていますが、その影響は口の中だけにとどまりません。特に、横向きに生えたり、一部だけが歯茎から顔を出していたりする親知らずは、歯痛はもちろんのこと、頑固な肩こりや首のリンパの腫れといった、一見関係のないような全身の不調を引き起こす、隠れた元凶となることがあります。親知らずがこれらの症状を引き起こすメカニズムは、実に巧妙です。まず、親知らずの周辺で炎症が起きる「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」です。中途半端に生えている親知らずと歯茎の間には、深い溝ができやすく、そこに食べかすや細菌が溜まって不潔な状態になります。体力が落ちて免疫力が低下した時などに、この細菌が活発化し、歯茎に急性の炎症を引き起こします。これが、親知らずの痛みの主な原因です。この炎症が強くなると、体は細菌の侵入を食い止めようと、最も近い防御拠点である顎の下や首のリンパ節を活性化させます。その結果、リンパ節が腫れて痛み、発熱を伴うこともあるのです。次に、噛み合わせへの影響です。横向きに生えている親知らずは、手前の歯(第二大臼歯)を常に圧迫し、歯並び全体を少しずつ歪ませていくことがあります。また、上下の親知らずが正常に噛み合わず、変な当たり方をしていると、顎の位置が微妙にずれ、顎関節やその周りの筋肉に不必要な緊張をもたらします。この顎周りの筋肉の緊張は、首や肩の筋肉へと直接的に伝播し、血行不良を引き起こします。これが、原因不明だと思っていた慢性的な肩こりや頭痛の正体であるケースは少なくありません。さらに、親知らずの痛みそのものが、無意識の食いしばりや、片側だけで噛む癖を生み出し、筋肉のアンバランスを助長します。もし、あなたが原因不明の肩こりや、繰り返し起こる顎の下のリンパの腫れに悩んでおり、なおかつ親知らずが生えているのであれば、一度歯科口腔外科で相談してみることを強くお勧めします。その長年の不調は、抜歯という選択によって、嘘のように解消される可能性があるのです。親知らずは、あなたが思っている以上に、全身の健康に大きな影響力を持っているのかもしれません。
親知らずが引き起こす歯痛、肩こり、リンパの腫れ