「もしかしたら、この歯茎のできものは歯肉癌かもしれない」そんな不安を抱えて歯科医院を訪れた際、どのような検査が行われ、どのように診断が下されるのでしょうか。その一連の流れを知っておくことは、過度な不安を和らげ、落ち着いて診察に臨むために役立ちます。まず、歯科医院、特に口腔外科を標榜している医院を受診すると、歯科医師は患者さんから詳しい話を聞く「問診」から始めます。「いつから、どのような症状があるのか」「痛みはあるか」「大きさや形に変化はあるか」「喫煙や飲酒の習慣はあるか」といった情報が、診断の重要な手がかりとなります。次に、口の中を直接見て触って調べる「視診・触診」が行われます。歯科医師は、問題となっている部分の大きさ、形、色、硬さ、そして周囲の組織との境界などを、注意深く観察します。指で触れて、しこりの有無やその硬さを確認することも、重要な診断情報となります。その後、より詳しい情報を得るために、レントゲン撮影が行われます。特に、パノラマレントゲン写真は、口の中全体を一枚の画像で確認でき、歯肉癌が歯を支える顎の骨にまで浸潤(癌が広がること)していないかを評価するのに非常に有効です。癌が骨を破壊している場合、レントゲン写真には、骨が溶けて黒く抜けたような像として映し出されます。これらの診察や検査の結果、歯科医師が歯肉癌の疑いを強く持った場合、最終的な確定診断のために行われるのが「生検(せいけん)」、すなわち「組織検査」です。これは、局所麻酔をした上で、疑わしい部分の組織を、メスやパンチといった器具で米粒程度の大きさで採取し、それを病理検査の専門家(病理医)に送って、顕微鏡で詳しく調べてもらうという検査です。この病理組織診断によって、初めてその組織が良性なのか悪性なのか、そして悪性であればどのような種類の癌なのかが、最終的に確定します。生検の結果が出るまでには、通常1週間から2週間ほどかかります。もし、歯肉癌と診断された場合は、CTやMRI、PET検査といった、さらに高度な画像検査を行い、癌の広がり具合(ステージ)を正確に把握した上で、大学病院などの高次医療機関と連携し、最適な治療方針を決定していくことになります。
歯肉癌の検査と診断、歯科医院での流れ