歯がズキズキと痛むだけでも辛いのに、追い打ちをかけるように首筋が張り、肩はガチガチに凝り固まり、顎の下のリンパ節が腫れて痛む。このような一見関係なさそうな症状が同時に起こることがあります。実は、これらはバラバラに起きているのではなく、口の中のトラブルを震源地として、連鎖的に引き起こされている可能性が非常に高いのです。では、なぜ歯の痛みが、遠く離れた肩のこりやリンパの腫れにまで影響を及ぼすのでしょうか。そのメカニズムは、主に二つの経路で説明できます。一つ目は、「筋肉の緊張」による関連です。歯に強い痛みがあると、私たちは無意識のうちに、その痛みをかばうような行動をとります。例えば、食事の際に痛い歯を避けて、反対側の歯ばかりで噛むようになります。この偏った噛み方は、顎の筋肉(咬筋)のバランスを崩し、片側だけに過剰な負担をかけます。顎の筋肉は、首や肩の筋肉と密接につながっているため、顎の緊張はドミノ倒しのように首筋(胸鎖乳突筋)や肩(僧帽筋)へと伝わっていきます。その結果、血行が悪化し、筋肉が硬直して、頑固な肩こりや首のこりとして現れるのです。また、歯の痛みそのものがストレスとなり、夜間に無意識の歯ぎしりや食いしばりを引き起こすこともあります。この持続的な強い力は、顎周りの筋肉を疲弊させ、肩こりをさらに悪化させる悪循環を生み出します。二つ目は、「炎症の波及」です。虫歯や歯周病が原因で歯の根の先に膿が溜まったり、親知らずが炎症を起こしたりすると、体はその細菌と戦うために、周辺の防御システムを働かせます。その最前線基地となるのが「リンパ節」です。顎の下や首の周りにあるリンパ節は、細菌やウイルスが体内に侵入するのを食い止めるフィルターのような役割を担っています。歯の周辺で強い炎症が起きると、リンパ節は活発に働き始め、白血球などが集まって腫れ上がります。これが、顎の下が腫れて、触ると痛む「リンパ節炎」の状態です。つまり、リンパの腫れは、歯の炎症が口の中だけにとどまらず、体の防御システムを巻き込むほど深刻化しているというサインなのです。このように、歯痛、肩こり、リンパの腫れは、筋肉の緊張と炎症の波及というルートを通じて、密接に結びついているのです。
歯の痛みが肩こりやリンパの腫れを招く理由